東京高等裁判所 平成8年(行ケ)99号 判決 1997年4月16日
神奈川県藤沢市湘南台5丁目36番地の5
原告
元旦ビューティ工業株式会社
代表者代表取締役
舩木元旦
訴訟代理人弁理士
福田賢三
同
福田伸一
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
指定代理人
伊藤晴子
同
前川幸彦
同
吉野日出夫
同
小川宗一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、昭和61年審判第20528号事件について、平成8年2月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等
訴外舩木元旦(以下「訴外人」という。)は、意匠に係る物品を「型材」とし、形態を別添審決書写し別紙第一とする意匠(以下「本願意匠」という。)について、昭和55年11月5日、本意匠を意匠登録第510344号意匠とする類似意匠登録出願をした(昭和55年意匠登録願第46027号)が、昭和61年7月24日に拒絶査定を受けたので、同年10月14日、これに対する不服の審判を請求するとともに、同日付けの出願変更届により類似意匠登録出願を独立の意匠登録出願に変更した。
特許庁は、同請求を昭和61年審判第20528号事件として審理したうえ、平成元年9月21日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月22日に訴外人に送達された。
訴外人は、同審決に対する審決取消訴訟を東京高等裁判所に提起し、同裁判所は、これを平成元年(行ケ)第266号事件として審理したうえ、平成2年6月26日、同審決を取り消す旨の判決をし、同判決は確定した。
特許庁は、これを受けて、上記審決請求事件につき更に審理したうえ、平成8年2月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月15日に原告に送達された。
本願意匠に関する意匠登録を受ける権利は、平成2年7月30日に訴外人から原告に譲渡され、同年8月1日、特許庁長官にこの旨の出願人名義変更届けがされた。
2 審決理由の要旨
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願出願前である昭和53年8月31日に発行された意匠登録第482800号公報所載の意匠(以下「引用登録意匠」という。その形態は、別添審決書写し別紙第二のとおり。)の下部受け座材を除いた上部部材のみの意匠(以下「引用意匠」という。)を引用し、本願意匠は、引用意匠と意匠に係る物品が共通し、その意匠も類似するから、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願意匠の認定及び引用登録意匠が型材に係る意匠であって形態を別添審決書写し別紙第二とすることは認めるが、その余は争う。
審決は、引用登録意匠の上部部材が型材の1部分であるにもかかわらず、本願意匠と物品が共通する独立した意匠と判断し、これを引用意匠として本願意匠と対比しているが、引用登録意匠の上部部材は独立の物品ではなく、これの意匠を独立の意匠としたのは誤りであるから、審決は、違法として取り消されるべきである。
1 意匠とは、単独で取引の対象となる物品性と、物品の外観に表される形態性の両方を備えたものであるところ、引用登録意匠は、上部部材と下部受け座材とが一体に構成される「型材」に係るものであり、その上部部材に相当する引用意匠は、あくまでも当該「型材」という物品の上側の部分であるにとどまり、独立の意匠ではない。また、引用意匠に係る物品は、それのみによる固有の用途、機能を備えず、かつ、交換可能性、単独取引性などいわゆる物品(完成品)の部品として不可欠の成立要素を含んでいない。したがって、引用意匠は、型材という合成物の上側を占める上側部分(部分品ではない。)に係るものにすぎず、意匠としての成立に不可欠な物品性を備えていない。
仮に、引用登録意匠において、上下の部材が独立した物品を構成するとすると、引用登録意匠は、上部部材と下部受け座材とが一体化した物品に係る意匠、上部部材のみの物品に係る意匠、下部受け座材のみの物品に係る意匠、という3つの意匠を含むこととなり、意匠法7条に規定する1意匠1出願の原則を逸脱することになる。
したがって、引用意匠は、意匠法3条1項3号にいう「意匠」と認定することはできない。
2 引用登録意匠の願書に添付された正面図等のいわゆる6面図において、引用登録意匠に係る物品は、上部部材と下部受け座材とが一体化されている形態を有し、この両部材が分離できるものであることも、それの再係合を可能とするための手段も一切開示されておらず、意匠に係る物品の説明においても、分離可能であるとの記載は全くなされていない。また、当該物品である「型材」が機能的に分離されなければならない必然性もない。にもかかわらず、審決は、補助的図面にすぎない「使用状態を表す参考断面図」(以下「使用状態図」という。)に記載された形態を曲解し、独断で上部部材の上面とキャップとがボルトとナットで係止されているとしたうえ、引用登録意匠の上部部材と下部受け座材とが分離可能であると誤認したものである。
引用登録意匠の現実的な施工態様を考慮すれば、使用状態図に示された図形は、ボルトとナットでなく、上下に分離する必要のないタッピングネジであると推認される。
すなわち、引用登録意匠に係る物品においてボルトとナットを用いて施工を行うのであれば、上部部材と上面キャップに形成される孔は、常識的に単なる通し孔と考えざるをえないが、その使用状態を表す使用状態図においては、両者と上部部材の下面に位置する2要素(一方が被告主張のナット)のいずれにも雌ネジ孔が開設されており、しかも、意匠に係る物品の説明においてボルトとナットを用いることに関する具体的な施工態様が明示されていないから、使用状態図の4の部材はボルトとナットではない。
また、引用登録意匠は、天窓構造に用いられる型材に係るものであり、建築の中でも屋根に準ずる高所作業に用いられるものであるから、そのような作業条件下において、上面キャップの雌ネジ孔にネジピッチが正確に対応する雌ネジ孔を上部部材の上面に開設したり、ボルトをねじ込んでナットと止め付けたり、ボルトを外して新しい採光パネルに交換したりすることは、きわめて困難であり、当業者が考える施工態様とはいい難く、現実性を有しない。
さらに、型材の使用の際の周囲には建築構造物が存在し(甲第6、第7号証)、そのため、少なくともいずれかの躯体要素に固定済みの上部部材に対して、後から躯体要素を回避しつつ、上部部材と等しい長さを有する長尺な下部受け座材(採光パネル裏側に生じた結露水を受け止めて下方に流下させ、天窓構造の下端から排水する機能からみて、長さは等しく設定されている。)を、下から差し入れて固定するのは、実質的に不可能である。
これに対して、片側のみから施工可能なタッピングネジを用いた場合には、建築躯体上に上部部材と下部受け座材とが一体となった引用登録意匠を敷設固定し、採光パネルを上部部材の段部に載置敷設し、上面キャップを上部部材の上面に載せ、タッピングネジを利用して上からねじ込んで固定し、採光パネルを交換する場合は、タッピングネジを外して上面パネルの固定を解いて新しい採光パネルに交換する。このような施工態様による場合は、上部部材と下部受け座材とを分離し、再度一体化する必要性は全く存在せず、その作業は容易で安全性も高い。
したがって、この種物品に係る当業者が、引用登録意匠が掲載された意匠公報を一見すれば、当然に上下に分離する必要のないタッピングネジを用いた施工態様によって施工するものと推認するはずである(甲第8号証、乙第3号証参照)。
3 以上のとおり、本願意匠と対比されなければならないのは引用意匠でなく、上下一体となって1物品を構成する型材に係る引用登録意匠であるところ、上部部材に下部受け座材が重合した形態を有する引用登録意匠は、本願意匠と著しく相違したものであることが明らかである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
1 意匠成立に不可欠な物品性を有する意匠法上の物品とは、概略的には不動産以外の有体物をいい、通常、完成品といわれるもののほかに、物品を構成するものであって、他から分離独立可能な単一物で、通常の状態で独立して取引の対象となる物品の部分品(部品)が含まれる。このことは、意匠法施行規則の「物品の区分」の欄に、完成品と部品が同格で共に独立した意匠法上の物品として記載されていることからも明らかである。また、意匠法上の物品については、出願時に当該物品が実施されていたり、単独に取引されている必要はなく、将来にわたって単独取引される蓋然性が全くないものはともかくとして、その物品の取引実態からみて単独取引が想定できる場合には、物品性があるものとするのが相当である。
本件の場合、引用意匠に係る物品は、引用登録意匠の物品の一部を構成するものであって、後記のとおり、他から分離独立可能であり単独取引が想定できるものであるから、引用意匠は、独立した意匠法上の物品の意匠と認められる。
なお、引用登録意匠は、1意匠と認定されて登録されたものと推定できるが、1意匠であるためには、出願意匠の構成態様について、その各構成部品(部材)がそれぞれに分離することができないような固着手段で結合されていなければならないものではなく、各構成部品を単に併置したり載置したりするものであっても、全体として形態上の一体性があるものについては、1意匠として認められるものであることは、意匠登録第381585号公報(乙第4号証)、意匠登録第427169号公報(乙第5号証)の例からも明らかである。そして、本願出願前に刊行された意匠公報において、引用登録意匠の態様の全容がいったん開示され公知になった以上、それと同時に、各構成部材の個々の態様も、各部材が分離可能か否かにかかわらず、当然公知の状態、すなわち、必然的に不特定多数の看者の目に触れ認識され得る状態になる。したがって、審決が、意匠法における創作保護の立法趣旨に則り、出願前に公開的にかつ客観的に認識できる意匠(引用意匠)と類似する意匠(引用登録意匠)は、新規性(客観的創作性)を欠くものと判断したことに誤りはない。
2 登録意匠の物品の使用方法等について、意匠公報の説明及び図面に具体的な記載がない場合でも、その物品分野の当業者がその記載内容からその使用方法等を推認できる場合には、その範囲内で使用方法等を解釈すべきである。
本件の場合、引用登録意匠が掲載された意匠公報の、正面図、断面図、使用状態図において、上下2部材間の明確な境界線及び断面図に異方向に引かれた平行斜線等からも、上下各部材が独自の境界を画した物理的にも別部材として存在していることが視認できる。また、引用登録意匠に係る物品の型材のような形態は、全体を1回のプレス成型により製造することが困難なものであるから、上下2構成部材を別個に組み合わせたものとするのが相当である。引用登録意匠は、一体性を有する意匠登録出願に係るものであり、各部材のそれぞれの意匠は権利対象外であるから、各部材の6面図が記載されていないからといって、常に一体不可分である根拠とはならない。なお、前示のとおり、1意匠であるためには、各構成部品がそれぞれに分離することができないような固着手段で結合されている必要はなく、全体の形態上の一体性があればよいから、引用登録意匠が当然に分離できないとする根拠はない。
さらに、意匠法施行規則に定める図面の種類に特段の軽重はなく、使用方法、使用状態等を理解するために参考図を参酌することは法の予定していることであるところ、使用状態図の4の図形を建築分野の当業者がみれば、ボルトとナットと推認するはずであり、このようにボルトとナットを用いて係止するには、当該物品の上部部材と下部部材をいったん分離しなければ不可能なことである。そして、引用登録意匠は、天窓構造の受枠型材に係るものであるから、その実施品の使用に際しては、キャップをボルトとナットで上部部材(引用意匠)に係止し、上部部材の段差部に採光パネルやパッキング材等を乗せたうえ、キャップとの間で挟持するものとするのが相当である。
なお、使用状態図には、ボルト貫通用通し孔状は記載されていないが、出願図面に記載の参考図においては、その性格上、物品の使用状態、方法等が当該意匠を理解する上で重要な部分でない場合には、細部の描写を省略することがあり、また、ボルトとナットを使用する際には、ボルト貫通用通し孔の開設をするのが常套手段であるから、同図において、ボルトのネジ山の外側が上面キャップ及び上部部材上面と接するところに沿って、貫通用通し孔を表すための左右の垂直線の描写が省略されていると解するのが相当である。
原告は、使用状態図のボルトとナットの図形の部材をタッピングネジと主張するが、そうすると、上部部材の上面裏側のネジ先端と嵌合されている部材の存在が説明がつかないことになる。これらの部材がボルトとナットであることは、当業者であれば見間違うものではない。
3 本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品が共通し、その形態についても、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼす基調において共通するものであるから、両意匠に差異点があっても、意匠全体として類似するものと認められる。
原告は、引用意匠を独立の意匠と認めず、引用登録意匠の全体と本件意匠とを対比して、類似しないと主張するものであるから、その前提において誤りである。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 審決の理由中、本願意匠及び引用登録意匠の形態がそれぞれ別添審決書写し別紙第一及び同第二のとおりであることは、引用登録意匠に係る物品が上部部材と下部受け座材とで分離可能か否かについての点を除き、当事者間に争いがない。
2 引用登録意匠が掲載された意匠登録第482800号公報(甲第4号証)によれば、その意匠に係る物品は「型材」であり、説明として「本物品は天窓構造におけるガラス、プラスチツク等の採光パネルの受枠型材であり、型材1とキヤツプ3との間に間隙部材7をはさんで2枚の採光パネル2を弾性パツキング5を介して挟持させ、キヤツプ3と採光パネル2との間をシール材6にて密封して使用する。」(同号証1頁)と記載され、意匠を示すいわゆる6面図に加えて引用登録意匠の理解を助けるために使用状態図が記載されている。
この説明及び使用状態図によれば、引用登録意匠に係る型材を実施して使用しようとする場合には、引用登録意匠の上部部材の段差部と、上側部材の更に上面に係止されたキヤップとの間に、間隙部材、採光パネル及び弾性パッキングを挟持させるものと認められ、キヤップを係止するために、キヤップの上面から上側部材にボルトを貫通させ、上部部材の上面裏側においてボルトの先端部とナット及びワッシャ(座金)とを嵌合させているものと認められる。また、前記公報の正面図では、上部部材と下部受け座材が明確に区別され、断面図、使用状態図においても、両部材に異方向に引かれた平行斜線が記載されていることからすると、上下各部材が物理的に別部材であることが明らかである。
したがって、引用登録意匠に係る物品において、ボルトとナット及びワッシャとを嵌合させるためには、上部部材と下部受け座材とをいったん分離させなければならないから、両部材は分離可能なものと推認される。
原告は、上記両部材は分離不可能であるとし、上記ボルトをタッピングネジと主張するが、タッピングネジはナット及びワッシャを不要とするものであるから(昭和54年10月29日発行の意匠登録第515273号公報「使用状態を表わす参考断面図」・甲第8号証)、上記主張が使用状態図におけるナット及びワッシャの記載に照らして採用できないことは明らかである。また、ボルトとナットにより両部材を結合する場合であっても、あらかじめボルト貫通用通し孔が穿設されている場合と使用する際に必要な箇所にボルト貫通用通し孔を穿設する場合があることは当裁判所に顕著な事実であるから、本件登録意匠を示す図面にボルト貫通用通し孔が図示されていないことをもって、引用登録意匠における上部部材と下部受け座材とが分離不可能なものと直ちにいうことはできない。
また、引用登録意匠の上部部材と同様の物品に係る意匠は、昭和54年9月3日発行の意匠登録第510344号公報(乙第2号証)の示すとおり建築物等の壁面用柱材あるいは屋根面の垂木として使用される型材の意匠として意匠登録されており、また、昭和55年5月23日発行の意匠登録第531766号公報(乙第3号証)の示すとおり屋根材として使用する断熱パネルの受枠型材の意匠として意匠登録されていることからしても、これらめ意匠に係る物品ひいては引用登録意匠の上部部材に該当する物品は、独立した取引の対象となるものと認められる。
したがって、引用意匠に係る物品は、天窓構造における採光パネルの受枠型材として建築物の構造材に該当し、一方、本願意匠に係る物品は、本願意匠の願書(甲第2号証)の記載に照らし建築物等の壁面用柱材あるいは屋根面の垂木として使用される型材であると認められ、両者はともに建築物の構造材に該当し、これらを並列してその間に採光パネル等を挟持して使用することにより同パネル等を支持する機能を果たすものである点で異なるところはないと認められる。
以上のとおり、引用登録意匠の上部部材に相当する物品は、他から分離独立可能な単一物で、通常の状態で独立して取引の対象となる物品と認められ、この物品に関する意匠、すなわち引用意匠は、引用登録意匠を所載した意匠公報において開示されているものと認められる。
なお、各構成部品を単に併置したり載置したりするものであっても、全体として形態上の一体性があるものについては1意匠として登録をして差し支えないことは、意匠法の規定の趣旨から明らかであるから、引用登録意匠が1意匠として意匠登録されていることは、上記認定の妨げとなるものではない。
そうすると、引用意匠は、独立した意匠法上の物品の意匠であり、本願意匠と引用意匠に係る物品は、その使用目的を共通にするものであるというべきであるから、これらの点に関する審決の判断(審決書3頁4行~4頁10行)に誤りはない。
3 本願意匠と引用意匠の基本的構成態様は、ともに全体を一体に成形した細長い部材の長手方向の底面を開放した中空の長尺材であり、その長手方向に対して垂直に切断した断面形状は、いわゆる「凸」の字の下片を開放したものであって、その下段部の両垂壁の下端から外側へ直角に延設した下段フランジ部を有するものである。また、具体的構成態様は、ともに全体の肉厚がほぼ同じであり、上段部につき、下方を開放した縦長方形状でありその上面が一定幅の水平面でパネル等の固定面となっており、下段部につき、底辺を開放した上段部より幅広の縦長方形状であり、上段部とほぼ同じ高さの方形状であって、段差部は、上段部の両垂壁の下端から外側へ直角に延設した水平面状のパネル等の挟持用の上段フランジ部を有し、下段フランジ部は、細幅で水平面状のパネル等の固定面である点で共通する。
これらの基本的構成態様及び具体的構成態様の共通点は、両意匠の特徴をよく表出しており、看者の注意を強く惹くものであって、両意匠のわずかな差異点を凌駕し、両意匠の基調をなすものであるから、その類否判断に支配的な影響を及ぼし、両意匠は全体として類似することは明らかである。本願意匠が引用意匠に比し、意匠の創作として独自の美感をもたらすものとは、到底認められない。
したがって、審決における共通点と差異点の認定及び本願意匠が意匠全体として引用意匠に類似するとする審決の判断(審決書4頁11行~8頁19行)に誤りはない。
4 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 清水節 裁判官芝田俊文は、転官のため、署名捺印することができない。 裁判長裁判官 牧野利秋)
昭和61年審判第20528号
審決
神奈川県藤沢市湘南台5丁目36番地の5
請求人 元旦ビューティ工業株式会社
東京都港区西新橋1-6-13 柏屋ビル4階
代理人弁理士 福田武通
東京都港区西新橋1-6-13 柏屋ビル
代理人弁理士 福田賢三
昭和55年意匠登録願第46027号「型材」拒絶査定に対する審判事件についてされた平成元年9月21日付け審決に対し、東京高等裁判所において、審決取消しの判決(平成元年(行ケ)第266号、平成2年6月26日判決言渡)があったので、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
本願は、昭和55年11月5日の意匠登録出願(出願当初、本意匠を意匠登録第510344号意匠とする類似意匠登録出願であったが、昭和61年10月14日付けの出願変更届により独立の意匠登録出願に変更した。)であって、その意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面によれば、意匠に係る物品が「型材」であって、その形態は別紙第一に示すとおりのものである。
これに対し、当審において拒絶の理由に引用した意匠は、昭和53年8月31日特許庁発行の意匠公報所載の意匠登録第482800号意匠の下部受け座材を除いた上部部材のみの意匠であって、その意匠は、意匠に係る物品が「型材」であって、その形態は別紙第二に示すとおりのものである。
ところで、請求人は、当審において引用した上記意匠は、下部受け座材を除去して上下に分離することが不可能な一体不可分の型材であるから、上部部材のみを引用の意匠とすることは不適切である旨主張するので、まずその点について検討するに、意匠公報に所載の該登録意匠の「使用状態を表わす参考断面図」及び説明文によれば、登録意匠の上部部材における上段部の上面とキャップ3とがボルトとナットで係止されている態様が認められ、この態様のように係止するためには、上部部材と下部受け座材が分離可能のものでなければ係止できないものであることから、該登録意匠は上下の部材が分離可能なものであって、それぞれ独立した物品を構成するものと認められ、よって、その上部部材のみを拒絶の理由に引用することが不適切であるということはできず、請求人のその主張は採用することができない。
そこで、本願の意匠と引用の意匠とを比較すると、両意匠の意匠に係る物品について、本願の意匠は、建築物等の壁面用柱材或いは屋根面の垂木として使用されるものであり、引用の意匠は、天窓構造における採光パネルの受け枠材であり、ともに建築物の構造材であって、これを並列して、その2本の構造材の間にパネル等を挟持すること、及び並列する構造材の上下面を被うパネル等の支持機能を果たし得る物品であって、その使用目的が共通する物品であると認められる。
両意匠の形態については、以下の共通点と差異点が認められる。即ち、両意匠は、全体の基本的構成態様につき、全体を一体に成形した細長い部材の長手方向の底面を開放した中空の長尺材であって、その長手方向に対して直角に切断した断面(以下、単に「断面」という。)の形状は、略中央に段差部を設けた上下段部から成る所謂「凸」の字の下辺を開放したもので、その下段部両垂壁の下端から外側へ直角に延設した下段フランジを有するものとした態様が共通する。また、各部の具体的態様については、両意匠とも1)その全体の肉厚が略同厚さの肉薄のものである点、2)上段部につき、下方を開放した縦長方形状としその上面を一定幅の水平面状でパネル等の固定面としており、3)下段部については、底辺を開放し、上段部の略縦長方形状より幅広で、上段部のその高さと略同高の略方形状であって、4)段差部は、上段部の両垂壁下端から外側に水平面状のパネル等挟持用の一定幅を有する上段フランジを設け、5)下段フランジは、細幅で水平面状のパネル固定用としたものである点が共通する。
これに対して、両意匠に係る形態の差異点として、1)上段部の下方を開放した縦長方形状の態様につき、本願の意匠のその上面の幅が、引用の意匠のそれに比べてやや幅広である点、2)下段部の略方形状の態様につき、本願の意匠のそれは、横幅に対してわずかに背が高い略正方形に近いものであるのに対し、引用の意匠のそれは、横幅が背高の約1.5倍の略横長方形状の態様のものである点、3)上記1)及び2)によって、上段フランジが本願の意匠のものが幅狭であるのに対して、引用の意匠のものは幅広である点、4)下段フランジにつき、本願の意匠のものが引用の意匠のものに比べてやや幅狭である点、5)略凸字状の各角につき、本願の意匠のものは直角状であるのに対して、引用の意匠のものは直角の外側が僅かに角丸状である点、が認められる。
上記の差異点について検討するに、1)の点については、両意匠の断面形状を並列して比較したときは、それなりの差異として認識されるものであるが、この差異は、全体形状として観れば部分的な差異に帰し、本願の意匠の態様もこの種物品の意匠として独特の特徴を形成するものでもなく、また、上面のパネル等を固定する際にも、この幅の差による機能上の影響は極めて小さく、ともに下方を開放した縦長方形状の上面を一定幅のパネル等固定用水平面状とした点の共通点がこの差異を圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものに止まり、2)及び3)の点については、本願の意匠が、引用の意匠よりも、わずかに背高で幅狭の略方形状の下段部で、かつ幅狭の上段フランジ部を有している印象を与えるものであるが、両意匠はともに上段にフランジを設け、下段にもフランジを設けて、両方のフランジに、上下段部の両垂壁の高さが略一致することにより、略同厚さのパネル等を固定することができうるようにした機能的な面において大差はない上に、全体の下方を開放した略凸字状とした構成の共通点が、上記印象を圧しており、両意匠全体の類否判断に及ぼす影響は軽微なものに止まるものであり、4)の点については、わずかな長さの違いにすぎず、下段部の下方を開放した方形状の垂壁の下端に外側に向かって直角状に細幅のパネル等固定用のフランジを延設した点の視覚的かつ機能上の共通性がこれを圧しており、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものに止まり、5)の点は、微細な部分の態様の差異にすぎず、両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものに止まるものと認められる。
そうして、これらの差異点を総合し相俟った効果を考慮したとしても、また長尺としての立体の全体形状の中で観た場合も、さらに建築工事関係者が物品として必然的に重視する態様としても、軽微なものに止まり、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすまでのものとはいえない。
一方、両意匠に係る形態の共通点とした全体の基本的構成態様及び各部の具体的態様1)乃至5)は、両意匠の機能に影響を与える形態であって、その共通する形態が両意匠の特徴を良く表出しており、看者の注意を強く惹くところであると認められ、これらの共通点が、両意匠の基調をなすところであるから、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼすものと認められる。
以上のとおり、本願の意匠は、引用の意匠と意匠に係る物品が共通し、その形態についても、両意匠の類否判断に支配的な影響を及ぼす基調において共通するものであるから、前記差異点があっても、結局、意匠全体として引用の意匠に類似するものと認められる。
したがって、本願の意匠は、意匠法第3条第1項第3号に該当するもので意匠登録を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成8年2月22日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
別紙第一 本願の意匠
意匠に係る物品 型材
説明 左側面図は右側面図と、背面図は正面図と、夫々同一のため省略する。
この物品は正面図において左右にのみ連続する。
<省略>
別紙第二 引用の意匠
意匠に係る物品 型材
説明 本物品は天窓構造におけるガラス、プラスチック等の採光パネルの受枠型材であり、型材1と
キャップ3との間に間隙部材7をはさんで2枚の採光パネル2を弾性パッキング5を介して挟持させ、キャップ3と採光パネル2との間をシール材6にて密封して使用する。
この意匠は側面図において左右にのみ連続するものである、背面図は正面図と、左側面図は右側面図と同一にあらわれる。
<省略>